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最寄り駅の名は既に忘れた。なぜなら自転車で行ったから。

制服を着た警官より向こうが警視庁か、はたまた警備員を含めて警視庁なのか。とにかく、その警官はもしそこに門があったならば、ちょうどレール上にあたる位置に立っていた。軽く会釈をして(視線は交わさず)通り過ぎるなり、警官はインカムに向かってひとかたまりの言葉を発する。僕が吸われるビルの前に立つ二人目の警官は、それに呼応するように視線を投げかけてくる。

受付に用件を告げると、脱力する間もなく、待合室へと通される。一回目の電話は中国語で、二回目は日本語で話していた男は、名前を呼ばれると読んでいた週刊誌を逆さまにして棚に戻した。わざと僕の気をひくように。まさか。newsweekを斜め読みして、もう一読するか、AERAを読むかぼんやりと考えたころ、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。

案内人の後を歩く。二次元RPGゲームのようにタテヨコタテヨコ、ちょうどもとの方角に戻ったと思ったころ、目的の部屋につく。大して歩いてないのに、道を記憶している自信がないのは、足元ばかり見ていたからか。

用紙に文字を記入する。別に緊張しているわけじゃない。わけじゃないが、誤字の上に二重線を引っ張る。男しかいない部屋。その中の一人に、席を立つよう促される。

「はい、じゃあ指紋をとりますね」

「はい、じゃあ針をさしますね」

という注射の前の儀式と似たような口調で、これからの行為を告げられる。左、人差し指、左、中指。左、薬指、小指。最後に親指。諳んじるのはその男。

「では、そのままぐりっぐりっとして下さい」
言われるがままに指の右腹、左腹を押しつける。すると、目の前のディスプレイには、顔の大きさもあろうかという指紋の渦が映し出される。初めての対面だ。
ぐるぐる回る渦の中心に目をやっても吸い込まれそうにならないのは、そこには無限がなかったから。自然界に出来上がった唯一無二の模様。そのことに神秘性を感じなくもないが、その皺の一つを、誰かに曲げられたり消されたりすることはとても耐え難いように思える。世界に自分は一つである証し。自分が世界で一人である証拠。自分の一部だから、いや、ひょっとしたら自分と同格の。

寝起きにすすったコーヒーのカップ、今までに回してきたすべてのドアノブ、携帯電話の不格好なボタン。いつかの蛇口、セロハンテープの裏。曇った車の窓、日照りのボンネット。手に付着しているミクロなばい菌のように、犬には聞こえている周波数帯の音のように、僕が見飽きたこの世界にぴったりとくっついたもう一つの世界が、そこには広がっている。
ある日、太陽に変わって、特殊なライトが世界を照らした。見渡す限りに浮かびあがる指紋に、僕は包囲されていた。
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